筋・腱・靭帯損傷のPRP注射―腱断裂からスポーツ障害まで
当院はこれまで関節の再生医療に取り組んできましたが、このたび厚生労働省の認可を得て、靱帯や筋肉、腱組織にPRP療法を拡大できることになりました。
PRP(Platelet Rich Plasma多血小板血漿)とは血小板を多く含む血漿成分のことです。血小板には傷ついた組織を修復する成分が含まれています。これを濃縮して傷んだ部分に注射することで組織の治癒能力を高め、早期治癒をはかります。
具体的には患者様の血液を採取し、血小板を抽出して濃縮することで自己PRPを作成します。ご自分の血液成分を注射するのですから安全で、ステロイドに見られるような組織を傷める副作用もほとんどありません。
肩腱板損傷
肩の腱板は腕を挙上する重要な役割をする、薄い腱組織です(図1)。
腱板の断裂の半数は外傷で起こりますが、残りの半数は腱板の加齢変化によって起こります。
症状は断裂の大きさによっても異なりますが、腕が挙上困難な場合は手術治療がしばしば行われてきました。しかし変性腱板が原因の場合は、縫合しても再断裂する可能性があり、期待したほどの効果がないことも少なくありませんでした。
PRP注射は腱板の断裂部分に施行することで、損傷部分の再生を期するものです。
これまでは手術の補助手段として併用されていましたが、PRP注射単独の治療でも有効であるとの報告が出はじめています。
アキレス腱断裂とアキレス腱炎
アキレス腱はふくらはぎの筋肉が太い腱となって足の後方に伸びたもので、断裂すると歩行困難になるほど重要な役割を担っています(図2)。アキレス腱断裂は、若年ではスポーツによる受傷が多く、高齢者はスポーツ以外の日常活動中に受傷することが多いです。
アキレス腱断裂の治療は手術と、手術をしないでギプス固定だけで治療する方法があります。最近は皮膚を小さく切るだけの小侵襲手術が行われるようになりました。
手術の有無にかかわらず、アキレス腱の断裂部にPRP注射を行って、損傷した組織の再生を促す治療が最近行われています。
スポーツでアキレス腱に負荷がかかると、断裂しないまでもアキレス腱とその周囲に炎症が起こることがしばしばあります。これがアキレス腱炎です(図3)。
PRP注射はアキレス腱炎に対しても有効性がたしかめられています。
テニス肘とゴルフ肘
テニス肘は肘の外側の筋肉のつけ根が痛む疾患です。指や手首を伸ばす筋肉(伸筋)はまとまって肘の外側(上腕骨外側上顆)に付着しています(図)。ここに筋力のストレスが集中するために痛むのがテニス肘で、正式な病名は上腕骨外側上顆炎(略して上腕外顆炎)といいます。テニス選手に多くみられることからこの名で呼ばれます。
ゴルフ肘はテニス肘とは対称的に、指や手首を曲げる筋肉(屈筋)が付着する肘の内側(上腕骨内側上顆)が痛みます。正式には上腕骨内側上顆炎(略して上腕内顆炎)といい、ゴルファーに多いことからゴルフ肘と呼ばれます。
手は日常生活でも休むことができませんので、テニス肘・ゴルフ肘は慢性化すると長期にわたって痛みが続きます。
PRP注射はテニス肘・ゴルフ肘で慢性炎症により痛んだ組織を修復することにより、難治性疼痛を改善することが期待できます。
ひざ靱帯と半月板の損傷
膝は主に4つの靭帯で支えられています。
内外両側に内側側副靭帯と外側側副靭帯があり、内部に前十字靭帯と後十字靭帯があって、膝がぐらつくのを防いでいます(図)。
内側側副靭帯損傷は膝の外傷でもっとも多く見られる障害のひとつで、横向きの外力で上下に引っぱられて損傷します。外側側副靭帯損傷も同様で、これらの靱帯は皮下の浅いレベルにあるため損傷部位に直接PRP注射を行います。
前十字靭帯損傷と後十字靭帯損傷は膝の深部にあるため、膝関節内にPRP注射を行います。
膝には内側半月板と外側半月板という軟骨の板があり、関節軟骨の摩耗防止の役割があります(図)。半月板が切れると膝関節内で引っかかったり、軟骨の摩耗を早めたりすることがあり、症状が改善しなければ手術で切れた部分を縫合したり、部分的に切除することがあります。
このような中でPRP注射は、損傷した半月板を修復することが期待されています。
肉ばなれ
肉ばなれは筋肉が急に引き伸ばされたり、過大な負荷がかかることで筋肉線維に微細な断裂が起こった状態です。大腿や下腿後方(ふくらはぎ)の筋肉に多く見られ、慢性化すると治りにくくなります。PRP注射で損傷した筋組織の再生が期待できます。
足靱帯損傷
足関節には内側と外側に靱帯がありますが、足を内向きにひねることで外側の靱帯が損傷されることが多いです(図)損傷靱帯の再生にもPRP注射が威力を発揮するとされています。
足底筋膜炎
足底筋膜は、かかとの骨(踵骨)から足の指の付け根にかけて、筋膜が「土踏まず」の部分に広がったものです(図)。
足底筋膜炎は中年以降の筋膜変性によることが多いと言われていますが、スポーツによる酷使が原因の場合もあります。慢性化して難治性となったものにPRP注射が行われます。
▶ その他のスポーツ障害については「スポーツ障害」へ